ひょんなことから一条ひなたと一緒に暮らすことになった。
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ある日の夕方。
「ちょっと食べ過ぎちゃったかな? あはは……ん?」
トイレから出てきた望は足下に白いものが落ちていることに気づいた。
「なんだろう?」
何の気なしにそれを手に取り、広げてみる。
「こ、これって……」
バカな望でも白くてちっちゃな布切れの正体はすぐにわかった。
持ち主もひとりしかいない。
「……ひなたのパンツ」
その時、部屋のドアが開き、ひなたが出てきた。
「どこかに落としたのかなあ? あ、望。アンタさあ……いや、いいわ」
ひなたがキョロキョロと辺りを見回す。
「ど、どうしたの? 何か、探してるの?」
「うん、そうなんだけど……自分で探すから大丈夫よ」
ひなたがリビングへむかう。そこに「何か」を探しに行ったのだろう。
(まさか……探している物ってコレ?)
とっさにポケットに突っ込んだ右手を取り出す。
力いっぱいパンツを握りしめた自分の手があった。
「リビングにはなさそうね」
ひなたが戻ってきた。
「どうしたのアンタ。なんか顔色が悪いわよ。体調でも悪いの?」
「いぃ、いやあッ、全然、元気だよ。もう、すごい元気で困っちゃうぐらいだよ。あははは」
「そう? それならいいんだけど……もう、どこいっちゃったのかしら?」
彼女が別の場所を探し始める。
(あっぶねえ、もう少しで見つかるところだったよ)
ポケットから右手を出す。
「どうしよう? 僕が持っているのがバレたら絶対に殺される」
ひなたに見つかった時のことを考えると全身に寒気が走った。
きっと見たこともない恐ろしい顔で息の根を止めにかかるだろう。
そんなのはごめんだ。
だからよくない頭をひねって考える。
すると珍しくよい案を思いついた。洗濯機の中に放り込んでおくのだ。
そうすれば取り忘れたと思ってくれるに違いない。
さっそく洗濯機のある脱衣所へとむかった。
「うーん、取り忘れってわけじゃないみたいね」
(確認済み、ですか)
一足遅かった。
「本当、どこいっちゃったんだろう? お気に入りだったのに……そこ、ジャマよ。どいてくれる?」
(ど、どうすればいいんだ?)
もう一度、考えてみた。またよい案を思いつくかもしれない。
だが、この状況を打破する方法を思いつかなかった。
(いや、必ずあるはずだ。この窮地を乗り切るための方法がッ。だから諦めちゃだめだッ!!)
額に手を当て考える。
(あッ、そうだッ!!)
思いついた。思いついたのだ。
この方法なら相手に知られることなくパンツを返すことができる。
むしろ、今までこれを忘れていた自分に驚いた。
(ただコレを使って返すってことは、無断で部屋に入ることになるんだよね。絶対に部屋には入らないって引っ越してきた日に約束したんだけど……それを破ることになっちゃう。でも、これは仕方がないよね。部屋を覗くために入るんじゃなくて、パンツを返すためなんだ。サッと入って、タンスにしまって、サッと帰る。絶対に他の物は見ない……誓うよ)
決心する。
「望、さっきから気になってたんだけど……」
ひなたが声をかけてきた。
「その右手に握られているものは何かな? ちょっと見せてもらえる?」
「え?」
右手はポケットの中ではなく──自分の額に当てられていた。
「大丈夫。アタシ、怒らないから」
ひなたが優しげな笑みを浮かべる。
まるで天使のようだ。だが、その手に無骨な警棒が握られている。
「……さあ、望。見せて」
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風澤望はアンダーポイントである。
同居人の一条ひなたは、周囲から恐れられている執行部のエースだ。
作:津上蒼詞