その所在地は、日本の高度政令都市の中でも最南端に位置する。
その景観を初めて見た者は、自分の目を疑うだろう。
太平洋に面した湾岸は、真っ白なビーチになっており、そばにはヤシの木がずらりと並んでいる。
ビーチの東側には、ヨットハーバーまで併設されていた。
さらに陸地は、高級リゾートホテルのような外観をした、50階建てはある学生寮が軒をつられている。
その様子は、まるでオーシャンリゾートだ。
結波市は、都市の建設にあたり、コスト削減のため若手の建築家たちを起用した。
さらに建設を急ぐあまり、「明るいイメージの街造り」とだけ伝えて、ほとんど彼らに丸投げしたのだ。
その結果、このような景観になった、と言われている。
そんな結波市では、休日となれば、強い日差しに負けじと、生徒たちが青春をおうかする姿を目にすることができる。
ちょうど、ビーチに併設されていたバスケットコートでは、少年たちが2オン2で対戦をしている。
キャップを被った少年が素早いバックパスで、上半身裸のハーフパンツの少年にパスを回す。
受け取った少年は、華麗なドリブルで相手をかわすと、見事にシュートを決めた。
2人が、ハイタッチで喜びをあらわす。
「ナイスシューッ、隆人」
「ナイスパスだぜ、望」
そんなバスケットコートの脇を、ホットパンツにインラインスケートを履いた少女が滑っていく。
ビーチにそって続く歩道を、スイスイと進んでいく彼女は、手にしたタンブラーを口へと運んだ。
その時、電子音が鳴り、彼女はポケットから学生証を取り出す。
「葉澄先輩、急にどうしたんですか? ……いえ、問題ないです。すぐに現場へ急行します」
少女がスピードを速めた。
ちょうど、彼女が通り過ぎた特設ダイニングでは、金髪壁眼の幼い少女とボブの少女が、トロピカルドリンクを飲みながらおしゃべりに興じていた。
「甘くて、しゅわしゅわ……一緒に出てきた、これはオレンジ?」
「シークワサーです。正式名はヒラミレモンですね。あ、酸っぱいですよ」
「うー、口の中がすっぱくなったあ」
アメリカからの交換留学生を数多く受け入れている結波では、国籍や人種を越えた交流は、珍しくない。少女たちのような友人関係を持つ生徒は大勢いた。
店内では、結波ネットラジオがBGM代わりに流れている。
『YNRから最高にクールでホットな情報と、ご機嫌なナンバーをお届けしちゃうぜ。続いては、最近の俺のお気に入り、これ聞くと元気が出るんだ。リスナーのみんなもこれを聞いて、今日一日をハッピーに過ごしてくれると、紹介した俺も……』
そして店の前では、サーフボードを抱えた少年たちが、赤いビキニの少女に話しかけていた。
どうやら、ナンパのようだ。
すると、大きなサングラスをかけた少女が走ってきて、ビキニの少女の腕をつかみ、猛スピードで走り出した。
ビキニの少女の大きな胸が揺れる。水着から、こぼれ落ちてしまいそうだ。
「咲見がこんなの着せるから、じろじろ見られて、すごく恥ずかしかったんだからッ」
「いやあ、アタシもちょっと目を離したら、こんなことになっちゃうなんて……でも、ちゃんと朋世を守ったからいいでしょ?」
「ぜんぜん、よくないッ」
二人の少女が、砂浜を駆けていく。
さんさんと降り注ぐ太陽の光が、そこで暮らしている生徒たちを、眩しいくらいに照らし出していた。
ここは結波市。日本最南端の高度政令都市だ。
作:津上蒼詞